集中治療医のStudy Melbourne

麻酔科系集中治療医が家族4人でオーストラリア・メルボルンへ博士課程留学!初めての海外研究生活、メルボルンライフの模様をお送りします!

6ヶ月経過・研究について(前編)

最初の半年の振り返りの2回目。今回は留学のメインである研究について。

長くなったので2回に分けて書く。

最初の半年を一言で表すと...

つい数日前にPhDコース開始後半年を迎えた。(コース開始は渡豪から3週間ほど後の5月頭。)

 

この半年間の研究生活を一言で表すと...「キツかった」。

 

夢も希望もないがこれが本音。オーストラリア人たちのポジティブさに染まって「楽しかった」とか「充実していた」とか言いたいところだが、そんな余裕は全くなし。

 

特にこの1ヶ月半ほどはタイトなスケジュールに加えてpre-confirmation meeting(後編参照)で心身ともにかなり消耗した。

 

ネガティブな内容で読んでも楽しくないかもしれないが、今考えていることを正直に書く。

研究内容とタイトなスケジュール

そもそも私がやっているのは大型動物を使った研究。

 

要は疾患のモデルを使って、病態の解明、新しい治療法の開発を模索するものである。

 

いわゆる基礎研究の範疇に入るが、その中では最も臨床研究や実際の医療現場に近いイメージ(translational researchと言われることもある)。

 

魅力的な点としては、実際の医療にかなり近いことをやっていること。例えば実験でうまくいった治療がダイレクトに患者に適応されたり(臨床試験につながる)、逆に患者に起こったことの原因を調べてくれーと医師から言われたりするのは非常に面白い点。

 

これまで医師として働いてきて、コテコテの基礎研究(例えば遺伝子やタンパクの解析)の経験がほぼゼロの自分にとっても、これまでの知識や技術が活かせるし、非常にとっつきやすいのだ。

(コテコテが全くないわけでないので、これから習得しないといけない)

 

一方で、かかる人手、手間、時間そしてコストがとても大きいのが難点。

 

例えば自分のPhDの2大プロジェクトのうちの1つは、メインの実験の日は外部の人も含めて10人以上の共同作業が必要で、さらにそれに伴う準備やサブ実験がたくさんある。(準備やサブ実験はほぼ全て自分の仕事。)

 

で、そのような大掛かりなプロジェクトのスケジュールは、当然外部の人の予定優先でメイン実験の日取りが決まる→その他のスケジュールが自動的に決まるという流れ。なので自分でスケジュールをコントロールする余地はあまりない。

 

一方、もう1つのプロジェクト(Aとする)に関してはメインの実験はまだ始まっておらず。現在は企業の研究に協力する形で別のプロジェクト(B)を走らせて、Aのメソッドを最適化している状況。

 

特筆すべきは、それらのプロジェクトで使う機器が日本製だということ。操作パネル、説明書まで全部日本語なのでラボで読めるのは私だけ。その機器は数年前に日本のメーカーが持ち込んで実験して(その時は別の日本人研究者がいた)そのまま置いていったもの。今回私が来るにあたり、倉庫の奥で眠っていたこの機器を実験に活かしたいという話になり、私の希望でAを、そしてその前段階としてBをやることになった(本当はもっと事情は複雑だが割愛)。

 

そんな事情もあって現在Bの実験をほぼ私単独で行っていて、ボスからは「できれば年内に終わらせぃ」とプレッシャーをかけられている。ボス自体はプレッシャーをかけているつもりはないと思うが、かなりキツキツにスケジュールを埋めればなんとか終わそうだが、私が体調を崩して欠勤しようものなら年内コンプリートはほぼ不可能になってしまう状況なので、勝手にプレッシャーを感じている。

徐々に疲弊していく

上記2つのプロジェクトが並行して進んでいるため、私のスケジュールは実験だけでほぼ埋め尽くされている。

 

この状況、最初のうちはありがたいなと前向きに捉えていた。

開始半年でまだほとんどデータが出ないPhD学生も山ほどいる中、単体でもPhDのテーマになりうるプロジェクトを2つ走らせて、半年の時点である程度データを蓄積できているのだ。

 

そして久しぶりに自分のキャパと戦っている感、自分を追い込んでいる感があって、これこそ留学に求めていたものではないか…と。

 

が、時間の経過とともに、そんな前向きな気持ちは少しずつ消えてしまった。

 

実験中の隙間時間に急いで翌日の実験の準備をする毎日。なんとか18時頃までに帰途に着いて家族の時間を確保するためラボに行く時間がだんだん早くなり(7時半→7時→6時半)、せっかく確立しかけていたルーティンを崩さざるを得なくなった。土日もどちらかは「パパ行かないで」と子供に言われながらラボに行って実験の準備や後始末。机に座って書き物をする時間が取れない焦りもある。

 

心なしか実験中の細かいミスも増えた気がする。実感としては「実験をたくさんやっている」というより「実験をやり散らかしている」という表現がまさにピッタリくる。

 

そんな状況が続き、いつしか「雑談にエネルギーを使う余裕がないからあんまり話かけないでほしい」とか「みんな風邪ひいて実験が中止になればいいのに」とか半分本気で考えるようになり、ここに書けない不適切な負の感情も抱えるようになった。(…ネガティブなことならいくらでも書けそうだけど、ここら辺でやめておく。)

少しペースを上げすぎた

冷静に自己分析をすると、心身共に疲労が溜まり、ネガティブな思考に囚われてしまってる、というのが今の自分の置かれている状況。

 

一応書いておくとラボには特に不満はない。むしろラボメンバーには感謝してもしきれないぐらいだ。リモートワークが成り立たない研究なのでボスや他のラボメンバーとは毎日顔を合わせていてコミュニケーションも良好(のはず)。

 

あと、勝手に「家族との時間もあんまり取れていない」と感じていたが、妻には「(働いている時間は)日本にいる時よりはマシじゃない?」と言われた。冷静になるとそうかもしれない。土日のどちらか半日潰れようが、残り1日半は家族で過ごせるのだ。日本にいた頃から考えたら夢のようだ。

 

先ほども書いたが、PhDとしての研究の進捗はありがたいことに全く問題がない。

 

結局のところ、慣れない環境で少しペースを上げすぎているのだと思う。

最近別のことで「頑張り過ぎると続かない」という話を先輩にされたが、まさにそういうことかな、と。

 

ということで、年内は(プロジェクトBが終わるまで)なんとか頑張るけど、クリスマス休暇はしっかり休み、そして年明けからは少しペースを落としてやるつもり。

 

これまでの人生、「やる?」って言われたら「うっす、やります!やらせてください!」っていう勢いで生きてきたが、現状でそれを続けているとバーンアウトしてしまう危険な香りがプンプンする。慣れない環境にいるせいか、はたまた歳を取ったのか。

 

ある程度線引きして無理なもんは無理って言おう、というのが今考えていること。目指せsustainableなPhD生活。

後編へ続く

もう1つ、ここ最近で私の心を蝕んだのはpre-confirmation meeting。長くなってしまったのでこれについては後編で書くことにする。

 

(続く)

最近晴れた朝に窓から見える気球。